神社や神棚に欠かせない「しめ縄」。見た目は似ていますが、実は綯(な)い方にいくつか種類があるのをご存じでしょうか?しめ縄の綯い方は、最も一般的な「左綯い」、地域によって見られる「右綯い」、そして出雲大社などに見られ特殊な「二本撚り(大黒締め)」の3つがあります。綯う方向が違うだけで、意味や象徴するものも変わってくるのです。
この記事では、それぞれの綯い方の特徴や背景、込められた意味を詳しくご紹介します。
左綯い(ひだりない)|もっとも一般的なしめ縄

全国の神社や神棚で最も多く見られるのが左綯い(ひだりない)です。わらを反時計回りにねじって綯う方法で、表面に左巻きの模様が現れます。
日常で使う縄(農作業用など)が右綯いであるのに対し、神事に使われる縄はこの左綯いが主流です。
なぜ左綯いが一般的になったのでしょうか。その理由の一つが、日本古来の「左上右下」という考え方です。神道では、神様から見て左が上位とされます。祭事でも左側を「神前の左」と呼び、右よりも尊い位置に置かれるのです。そのため、神聖な力が集まる方向として「左綯い」が用いられるようになったと考えられています。
また、左綯いは「陽の気」を象徴するとされ、清め・結界・再生などの意味を持つとも言われています。神域と俗界を分けるしめ縄に、左綯いが多く用いられるのは自然な流れといえるでしょう。
右綯い(みぎない)|地域限定・信仰による例外的な綯い方

一方で、右綯い(みぎない)のしめ縄も存在します。これはわらを時計回りにねじって綯う方法で、表面に右巻きの模様が現れます。数としては非常に少なく、地域的・信仰的な要素によって使い分けられてきました。
右綯いは、左綯いと対になる「陰」を象徴するとも言われ、静寂・鎮め・水・女性性などを意味することがあります。たとえば、火を祀る神社では「火が上に立ちのぼる=左綯い」、水を祀る神社では「水が右に流れる=右綯い」といった解釈がなされる場合もあります。
また、地域の伝統や祭神の性格によって「右綯いが正しい」とされる土地もあり、全国的な統一はありません。民俗学的にも、右綯いは「地域信仰の痕跡」として非常に興味深い存在です。
出雲型(二本撚り・大黒締め)|力強く、特別な構造のしめ縄

そしてもう一つ、全国的にも非常に特徴的なのが出雲型(二本撚り)のしめ縄です。 代表的なのは島根県の出雲大社や、福岡県の宮地嶽神社など。どちらも太く迫力のある「大しめ縄」が印象的ですが、実はその構造が他とは大きく異なります。
出雲型は、まず左綯いの小縄を作り、その縄を束ねて太い束にします。さらにその束をこも(薦)で包み、2本を右方向に撚り合わせることで完成します。出雲大社の大しめ縄は、2本の太縄を撚り合わせるという構造をとっており、その工程の中には一般的な神社のしめ縄とは異なる綯い/撚りの流れを示しています。見た目は右巻きに近い印象を受けるため“右綯い”と説明されることもありますが、制作工程や民俗学的な見地からは“右撚りの二本締め構造”と整理されることが多く、綯い方そのものは左綯いと解説される場合もあります。
この構造には実用的な理由もあると考えられています。実際、太く長く設けられたしめ縄では自重や風雨による変形・崩壊の懸念があり、2本を撚り合わせることで強度と安定性を確保できる設計になっているという解説があります。また、2本を合わせる意匠は、神と人、陰と陽、夫婦和合などを象徴するとされ、出雲地方の信仰体系の中でこの構造が特別な意味を持っていると捉えられています。
出雲大社の神楽殿に掛かるしめ縄は、長さ約13.6メートル、重さ約5トンにもなる国内最大級の規模です。巨大なしめ縄として知られ、構造や製作技術の独自性から、出雲地方を代表する伝統的な神事装飾の一つとされています。
綯い方の違いに込められた意味

左綯い・右綯い・出雲型。3つの綯い方には、それぞれ異なる世界観が込められています。
整理すると
・左綯い…陽・神聖・清め・再生を意味し、一般的な神社や神棚で使用される。
・右綯い…陰・静・鎮め・水を意味し、地域信仰や祭神により採用される場合がある。
・出雲型(日本撚り)…結び・調和・力強さを意味し、出雲大社や宮地嶽神社などの特定地域に見られる。
綯い方の違いは単なる技術的なものではなく、「どういう神様を祀るか」「どんな祈りを込めるか」といった信仰の違いでもあります。そのため、全国に共通するわけではなく、どの綯い方にもその土地の文化と意味が息づいているのです。
まとめ|地域の作法に合わせた綯い方を大切に

しめ縄の綯い方には、「左綯い」「右綯い」「出雲型(二本撚り)」の3種類があることを解説しました。しめ縄にはその地域で受け継がれてきた形があり、綯い方の違いを知ることで、しめ縄をより深く味わい、神社や地域の文化への理解も広がるでしょう。
折橋商店では、古来の綯い方や型を大切にしながら、地域の風習や神社様の作法に合わせたしめ縄づくりを行っています。次にしめ縄を目にしたときは、ぜひその綯い方にも注目してみてください。きっとそこに、土地ごとの祈りと職人の技が見えてくるはずです。






