お正月になると、日本全国で特色あるデザインのしめ飾りが掛けられますが、なかには本物の魚をあしらった飾りがあります。これを「懸の魚」といい、獲れた魚を神様に捧げたり、少しずつ切り取って食べるために吊るしておいたものをいいます。この記事では、漁業や海としめ縄の関係や海にまつわる神様についてご紹介します。
海にまつわるしめ縄「懸の魚(かけのいお)」
本物の魚または魚を表したものをしめ縄に飾る「懸の魚」というしめ飾りがあります。(「かけのいお」、「かけのうお」、「かけのいよ」と地域によって呼び方が異なるようです。)
飾られる魚も、鯛、鮭、カツオ、フナ、マス、タラ、ブリ、イカなど地域によって異なり、形もそれぞれ独特な形をしています。
例えば、西伊豆の田子地区ではカツオに装飾を施したものを「正月魚」として神棚にまつります。カツオの左右のエラに青々としたわらを差し込み、心臓を残して内蔵を抜き、目を抜かずに塩を詰めて白くします。
青いわらは豊漁を表し、心臓は魂を、白い瞳は「目が出るように」という意味を表します。
また、兵庫県洲本市の「にらみ鯛」は、2尾の鯛を向かい合わせでわらと共に結んだもの。
香川県の伊吹島では高さが1mもある懸の魚が作られ、形も独特です。
これら「懸の魚」は、昔、初漁で獲れた魚を神様に供えていた風習がベースになっているといわれています。
しめ縄と漁業の網
折橋商店のある、富山県射水市は古くから漁業がさかんな町です。
漁師さんたちはかつて自身でわら製の網を作っていましたが、折橋商店が依頼を受けて製造を手がけるようになりました。
その後、化学繊維ロープの製造事業を行っていると、漁業関係者から神社のしめ縄にも応用できないか、との依頼を受けました。それがきっかけとなり、先代の社長が社員とともに開発したのが、現在の30年の耐久性を持つしめ縄です。
鮎のしめ縄漁
しめ縄は一般的には、神社や神棚などでみられるものですが、漁業に使う事例も存在します。
それは鮎の漁法のひとつ「しめ縄漁」です。
しめ縄漁は、鮎が産卵のため上流から下流へ下るときに、川幅いっぱいにしめ縄を張ります。鮎はしめ縄があると下れないため、しめ縄付近にとどまります。その鮎たちに網をかけて獲る方法です。
この漁法は、高知県の四万十川や大分県の大野川、熊本県でも行われており、熊本県ではしめ縄で作った障害物のことを「おろ垣」といいます。
漁業にまつわる神様・神社
海に囲まれた日本に暮らした人々は、大昔より海から自然の豊かさや厳しさを受け取ってきました。海や漁業、海上交通に関係のある神様や神社は数多くありますが、ここでは恵比寿さまと事代主神(ことしろのぬし)さまを紹介します。
七福神のメンバーでもある恵比寿神さま。魚と釣竿を持つ姿でもおなじみですが、漁の神、海上交通の神としても知られています。
海の彼方から人に福をもたらすといわれ、沿岸部では漁の神様ですが内陸部でも商売繁盛の神様として人気です。
海の神様として「事代主神」さまもあげられます。事代主神さまとは、『古事記』『日本書紀』によると、大国主の御子神様で、船に乗ったり、釣りを楽しんでいたりしたといわれています。
恵比寿様をおまつりする神社は以下の2社が有名です。
西宮神社
兵庫県にある西宮神社は、恵比寿さまをおまつりする総本社といわれています。大昔に大阪湾の神戸・和田岬の沖より出現したご神像を、西宮の漁師がおまつりしたのがはじまりと伝えられており、御祭神は、恵比寿さまと天照大御神、大国主大神、須佐之男大神です。
美保神社
島根県美保湾が広がる港町にある美保神社は、恵比寿さまの総本宮といわれています。
御祭神は三穂津姫命(みほつひめのみこと)とえびす様の別名で知られる「事代主神」(ことしろぬしのかみ)。
恵比寿様にちなんで、小さな釣竿にぶらさがった絵馬も人気だそうです。
まとめ〜しめ縄は魚や漁業とも関係が深かった〜
しめ縄は一般的にわらで作られているため、どちらかといえば農業の方に関係していると思われがちですが、漁業や海とも密接に関わっていることがわかります。
それもそのはずで、日本は海に囲まれた島国であり、至る所に川もある、水産資源に恵まれた土地です。折橋商店も海の近くにある会社であり、漁の網から現在のしめ縄がうまれたのでした。しめ縄と漁業のつながりも興味深いですね。