しめ縄の意外な活用？おかげ犬と伊勢参り

2025.2.8

しめ縄といえば、神社や神棚、お正月のしめ飾りなどが連想されますが、犬の首輪にもなっていることはご存じでしょうか？江戸時代に伊勢神宮へ参詣した犬は「おかげ犬」と呼ばれ、しめ縄を首に巻いて歩いたといわれています。

この記事では、おかげ犬を中心にしめ縄の意外な活用についてご紹介します。

おかげ犬とは？

江戸時代、ご主人の代わりに伊勢神宮を参詣したといわれる忠犬たちのことをいいます。

伊勢へ参詣することを「おかげ参り」といい、「一生に一度はお伊勢参り」という言葉があるように、庶民の憧れでした。また60年周期で起こる「おかげ年」に数百万人規模がお参りに押し寄せ、仕事の途中や家の人に内緒でふらっと抜けて参る「抜け参り」もあり、伊勢参りはブームになっていたのでした。

このような伊勢参りの風習があるとはいえ、江戸から伊勢までは、歩いて片道15日ほど。

病気で寝込んでいるなど何らかの理由で、お参りに行きたくてもいけない人も存在します。このようなご主人の代わりに伊勢に参ったとされているのがおかげ犬なのです。

おかげ犬が伊勢詣をすることを「犬の代参」といい、首に道中のお金と伊勢参りをする旨を書いたものをしめ縄でくくりつけて送り出されました。

おかげ犬は、近所でおかげ参りに行く人に連れて行ってもらうのが一般的でしたが、自分で行って自分で帰ってきた犬の話も伝わっています。

犬が長い道中をお参りなど信じられないと思うかもしれませんが、道ゆく人々はリレー形式で連れて行ったり、餌をやったり泊めてやったりと手厚くサポートしました。おかげ犬のサポートをすることは「徳」が積めるとされていたからです。反対に、おかげ犬を丁重に扱わなかった場合は神罰が下ると恐れる文化もありました。

おかげ犬の話は書物に書かれているだけでなく、歌川広重（安藤広重）の東海道五十三次にも姿が描かれています。

伊勢神宮内宮の宇治橋前から猿田彦神社方面へ続く通りが「おはらい町」。おはらい町の中ほどに「おかげ横丁」があります。江戸期〜明治期の建築物が移築・再現されており、風情を感じながら、伊勢名物を楽しめます。

おかげ横丁には、おかげ犬の置物やぬいぐるみ、タオル、巾着、キーホルダー、お守り、文房具などがあり、しめ縄を巻いた犬の姿がかわいくて縁起が良いため、とても人気があるそうです。

また、おかげ横丁では、「おかげ犬体験」ができます。これはしめ縄の首輪をつけて、伊勢参りの道中を愛犬と楽しめるというもの。グルメクーポンや「蘇民将来の木札」引換券など、いくつかの特典がうけられます。

ちなみに「蘇民将来の木札」というのは、伊勢地方でお正月に（地域によっては一年中）飾られているしめ飾りにつけられている木札のこと。「私の家は蘇民将来の子孫の家である」という意味で、魔除けのお守りになっています。

おかげ犬体験の様子は、おかげ横丁のInstagramでも見ることができます。

神社や神棚のみならず、おかげ犬の首輪にまで活用されているしめ縄ですが、その幅広い使い方をみていきましょう。

しめ縄は、全国にある巨木や巨石、巨岩などの自然物につけられています。

それは古来より日本人は山や岩、木、海など自然物に神が宿っていると信じ、信仰の対象としてきたから。神社に現在のような社殿が建てられるようになったのは、6世紀以降に日本に伝わった仏教の影響があるとされており、古代の神道では、神社を建てて神を祀るのではなく、祭の時に、神を招いて儀式を行っていたのです。

この時に、神を迎える神籬（ひもろぎ）として、巨木や言い伝えがある木、巨石や巨岩などの自然物を崇拝するようになりました。神籬とは、神社や神棚以外で、祭祀を行う場合に、臨時に神を迎えるための依代（よりしろ）をいいます。

神社でのしめ縄は神域を守るものですが、「勧請縄」や「トリクグラズ」といって、村や集落の入口、辻を守る結界のようなしめ縄があります。これらは地域のよって独特の形をしており、特に滋賀県の湖東地方や湖南地方のものが有名です。

輪のかたちになっているしめ縄「茅の輪」。この輪をくぐることで罪や穢れを取り除き厄災をはらいます。心身が清らかになり、無病息災を祈ります。茅の輪くぐりは6月30日の「夏越の祓え」の際に全国各地で行われますが、1年の厄を落とすため、年末にも行う神社があります。

神社のしめ縄が派生したものがお正月のしめ飾り。地域によってさまざまな形に編まれたしめ縄に縁起物の飾りをつけます。しめ飾りは、歳神さまをお迎えする目印であり、家の中が清浄に整いましたということを表しています。

近年多くなっているのが、インテリアとしてのしめ縄です。土台としてのしめ縄に、お好きな花やファブリック、自然物などの飾りをつけます。また、飾りをつけずに、材料そのものの美しさを生かしたしめ縄もあります。形も素材も千差万別です。

おかげ犬をはじめ、しめ縄が活躍する場面をご紹介しました。おかげ犬の首にしめ縄がまかれたことは、道中のお守りとしてであったかもしれませんが、周囲の人たちもしめ縄に神を感じ、丁重に扱ったのだとも考えられます。

おかげ横丁「おかげ犬体験」のInstagramでは、しめ縄を巻いた、ただただ可愛い犬たちを見ることができますが、江戸時代に想像を膨らませるのも楽しいですね。

折橋商店でもインスタグラムを更新しています。神社さんへの取り付けの職人技や、神社歩きの神社に参拝しているかのような動画がご覧いただけます。