しめ縄の本体を雲、紙垂(しで)を雷に見立てる考え方が古くからあり、これは稲作をおこなってきた日本人の暮らしと関わっているといわれています。この記事では、しめ縄と稲作の関係や意味、しめ縄の形についてご紹介します。
しめ縄の意味
神社のしめ縄は「神様がいる場所」を示します。
神様が常にいらっしゃる場所だけでなく、時々立ち寄ったりする依代(よりしろ)や御旅所(おたびしょ)のような清らかにしておくべき場所を表すこともあります。
また、神様の住む世界と私たちの住む世界の境界を示したり、神様の住む神聖な場所へ悪いものが入らないようにする結界を示したりしているのです。
しめ縄の形の意味
しめ縄にはさまざまな形があります。ここではそのなかでも、神棚や神社で多くみられる「ごぼう型(大根型)」のしめ縄を例にご紹介します。
写真のようなしめ縄。このしめ縄の本体は雲、ギザギザの白い紙「紙垂(しで)」は雷、わらの束=〆の子(垂)は雨を表すという考え方があります。
しめ縄は、氏子たちや地域住民がその年にできた稲わらで作り、神社に奉納することが一般的でした。古くから稲作を行ってきた日本人は、しめ縄の形に豊作に関係する「雲・雷・雨」を表現し、五穀豊穣を願ったと考えられています。
なぜ雷が稲作に関係するのか?
稲妻ひと光で稲が3寸(約9cm)伸びる」、「雷が多いと豊作になる」といわれているように、古くから雷は五穀豊穣をもたらすと伝えられてきました。
作物の成長に重要な役割を果たすのが「窒素」です。
窒素は空気中の約8割を占めますが、この窒素を植物が直接取り込むことはできません。
産業革命の時代にハーバーボッシュ法が発明されて、化学肥料が誕生しましたが、それ以前では、草をもやして灰にした草木灰や人糞尿、魚を乾燥させて肥料にしたもの、菜種の粕、家畜の糞を発行させた堆肥などをおもに肥料として使っていました。
これらの肥料のほかに、植物が窒素を得ることができたのが、雷雨です。
雷の放電によって空気中の窒素が窒素酸化物に変わり、雨に溶けて大地に降り注ぎます。
稲が最も成長するのは、7月〜8月上旬といわれています。この時期に雷が多く発生することもあってか、稲をふくらませる「稲の妻」として「稲妻」とも呼ばれたのでしょう。
たしかに夏の雷が発生する仕組みをみても納得です。夏の強い太陽の光で地表が温められ、上昇気流が発生し、積乱雲が作られます。そして雷や雨が発生するわけですが、これは稲にとって十分な日照と気温、降水がある証でもあるのです。
また、七十二候には雷を表す期間があり、3/30〜4/3頃の「雷乃発声(雷すなわち声を発す)」と9/22〜9/27頃の「雷乃収声(雷すなわち声をおさむ)」があります。
春分に鳴り始め、秋分におさまる雷という意味で、稲が育っていく時期と重なります。
しめ飾りの形の意味
ここまでは、しめ縄の形にこめられたひとつの意味をご紹介しましたが、しめ縄よりもバラエティ豊かなのが、お正月に飾られるしめ飾りです。
お正月に玄関先に飾られるしめ飾りは、歳神様をお迎えする目印です。家が清浄になりお迎えする準備が整ったことを示し、またそのような空間に悪いものが入っていかないようにする役割もあります。
しめ飾りには地域によって特色があり、形もかなり違ってきます。
森須磨子さん著『しめかざり 新年の願いを結ぶかたち』より、意味別にご紹介します。
稲作や五穀豊穣と関係するもの
稲作や五穀豊穣と関係するものに、米俵や宝船があります。
例えば、山形県でみられる「米俵」は、五穀豊穣を表します。山形県は現在では米どころですが、明治時代の初頭には反あたりの収穫量が全国平均を下回っていたといいます。それから昭和40年代には全国1位に。このような並々ならぬ努力や稲作にかけた思いがしめ縄にも込められているといいます。
漁業に関係するもの
香川県にある伊吹島では「懸の魚(かけのさかな)」という形のしめ飾りが飾られています。昔は本物の鯛をつけて、できたしめ縄を海に浸してから飾ったとのこと。人形のような形をしており、作るのに非常に手間がかかるといいます。
長寿に関係するもの
長寿のモチーフとして鶴・亀・海老があります。鶴は、千年の命を持つといわれ、長寿の象徴でもあります。また、鶴がくわえてきた稲穂から稲作がはじまったとする伝承が全国各地にあることから、五穀豊穣の意味もあります。鶴は九州地方に多いのが特徴だそうです。
まとめ〜しめ縄の形から込められた願いや生活が分かる〜
神社や神棚でよくみられる牛蒡型のしめ縄を例に、形の意味やなぜ稲妻が関わっているのかをご紹介しました。もちろん、しめ縄にもさまざまな形がありますし、稲作を行っていない地域もあります。しめ縄やしめ飾りの形をよく見てみると、古くから地域の人々がどのような願いを持って生きていたのか、土地に根ざした考え方を知ることができます。お住まいの地域にあるしめ縄やしめ飾りを観察してみると、多くのことが分かるかもしれません。