お正月や神社で目にする「しめ縄」。実はその制作が始まるのは、秋だということをご存じでしょうか。秋は稲刈りの季節であり、しめ縄の材料となる稲わらの仕込みが本格化する時期です。地域によっては、夏に刈り取られた“青刈りわら”がこの時期から使われ始めます。しめ縄は冬の神事や年末行事に合わせて納められるため、職人たちは秋から準備を始め、新しい年の祈りを形にしていくのです。
この記事では、秋に始まるしめ縄づくりの流れや意味、稲わらの扱い方、秋祭りとの関わりまでをご紹介します。
しめ縄と秋の関係|なぜ秋に作り始めるのか

しめ縄は、神様のいらっしゃる神聖な空間と、私たちの住む俗世界を隔てる「結界」を示すものです。 その主要な材料であり、古くから親しまれてきたのが稲わらです。しめ縄に使用される稲わらはおもに、秋の稲刈りで刈り取られたものでした。刈り取られた黄金色の稲わらは、秋祭りや年末に地域の神社に奉納したり、お正月の前に各家の玄関に飾るしめ飾りに使用されます。
しかし、中には秋に刈り取らない稲わらもあります。それは「青刈りわら」と呼ばれる、完全に熟す前の青みを残した稲のことです。稲穂が実る前の青々とした状態の稲を、7月下旬から8月上旬に刈り取り、乾燥・選別。秋から冬にかけてのしめ縄づくりまで大切に保存されます。そのため、お正月になってもしめ縄が青々とし、稲の自然な香りが残るのが特徴です。
このように、しめ縄用のわらにも種類がありますが、黄金色のわらも青刈わらも、いずれもしめ縄として命が吹き込まれるのは、秋〜冬にかけて。しめ縄職人の繁忙期でもあるのです。
稲わらの収穫と選別|良質なしめ縄をつくる素材づくり

古くから農村では、脱穀後に残った稲わらを使ってしめ縄を作る習慣がありましたが、先述の青田刈りされるわらのように、しめ縄専用として育てられる稲もあります。
しめ縄づくりに適した稲わらは、通常の食用米とは異なり「穂よりも茎」を重視して育てられます。しなやかで強い、丈の長い品種を育て、穂を落とさずに刈り取ることで茎にハリとしなやかさを保ち、時間が経っても折れにくい素材になります。
刈り取ったわらは天日に干され、水分を飛ばすことで乾燥させます。十分に乾燥させることでカビの発生を抑え、撚りやすい状態に整えることが可能です。乾燥後は、色つや・太さ・長さなどの基準で選別され、特に神社奉納用のしめ縄では、見た目の均一さや手触りも考慮されて職人が一本一本確認しながら整えます。こうした素材の仕込み作業が、秋〜冬のしめ縄制作に向けた大切な土台となっているのです。
秋祭りとしめ縄の掛け替え|実りを感謝し、結界を清める

秋は全国各地で「秋祭り」や「新嘗祭(にいなめさい)」が行われる季節で季節で、実りに感謝する神事が多く行われます。収穫の喜びを神様に感謝し、自然の恵みを祈る祭礼では、多くの神社でしめ縄が新しく掛け替えられます。
特に出雲地方などでは、年末ではなく秋にしめ縄を奉納する風習があり、「新しいわらで神域を清め直す」という意味が込められています。実りを終えた稲を使って結界を新しくすることは、 「今年も豊かな恵みをありがとうございました」という感謝の表現でもあるのです。
しめ縄が単なる装飾ではなく、「季節の祈り」を形にしたものであることを、秋の行事を通して現代でも改めて感じることができるでしょう。
職人にとっての秋|来年の祈りを形にする準備の季節

しめ縄職人にとって、秋は一年で最も忙しくも大切な季節です。新しい稲わらが手に入ると、まずは素材の状態を見極め、乾燥や選別を進めます。その後、冬にかけて制作が本格化し、神社や地域行事への納品に向けて作業が続きます。
しめ縄は、ただの飾りではなく、祈りを結ぶものです。そのため、職人たちは一本一本の縄を丁寧に綯いながら、新しい年を迎える人々の平穏や豊作を願います。素材の確保から納品までの工程すべてが、「新しい年を迎える支度」の一部なのです。
まとめ|しめ縄づくりは“新しい年の始まり”の第一歩

秋は、しめ縄にとっても、そして日本の暮らしにとっても大切な季節です。稲が実り、わらが整い、神様への感謝が捧げられるこの時期に、しめ縄づくりは静かに始まります。
収穫の喜びと、次の年への祈りをつなぐものがしめ縄であり、秋に準備された一本一本のしめ縄が、やがて冬を越え、新しい年を迎える人々のもとへと届けられていくのです。
折橋商店では、伝統的な製法を大切にしながら、地域の風習や神社様の作法に合わせたしめ縄づくりを行っています。






