神社や海などにある巨大な岩や石に、しめ縄が張られているのを見たことはありませんか。
古くから日本には自然崇拝(アニミズム)があり、巨石や巨岩に神様が宿ると考えられていました。しめ縄は神様がいらっしゃる神聖な場所を表すためにはられていたのです。
この記事では、巨石や巨岩信仰である「磐座信仰」について解説します。
磐座信仰とは?
神様が降臨する岩や巨石のことを「磐座(いわくら)」といいます。
本来、神道には現在の社殿のような建物はなかったとされ、社殿を持つようになったのは、仏教の影響といわれています。仏教が日本に伝わったのが6世紀以降ですので、磐座信仰はそれよりも昔から行われていたといえるのです。
この磐座信仰は、古くからある自然崇拝(アニミズム)の一種であり、山、川、岩など自然界のあらゆるものに神聖な力が宿ると考え、敬ってきました。
人々は自然界との結びつきを感じ、神々への感謝や願いを捧げていたのです。
当初は、深い山々に鎮座する岩にしめ縄を張り、神様をお迎えしたと考えられています。
神様が常駐するというよりは、祭祀を行うたびに神様を呼び寄せる感覚だったと考えられています。
現在でも、神社の境内にある磐座は、神が降臨する場所とされ、祭祀の中心となることが多く、日本中に磐座が存在します。
また、磐境(いわさか)という言葉もあり、これは磐座を中心とした祭祀場を意味します。ストーンサークル(環状列石)もこの磐境に類するそうです。
磐座信仰がみられる場所
磐座信仰がみられる場所は日本中にありますが、ここでは有名な磐座をご紹介します。
三重県熊野市「花の窟(はなのいわや)神社」
世界遺産の一部にもなっている、「花の窟神社」には、社殿はなく、熊野灘に面した高さ45mの巨岩がご神体です。
年に2回の例大祭「御縄掛け神事」では、約170mの大しめ縄をご神体から、境内南隅の松の御神木にわたすことが行われます。
和歌山県新宮市「神倉神社」ゴトビキ岩
現在は熊野速玉大社の境外摂社となっている神倉神社。
この神社のご神体がゴトビキ岩です。ゴトビキとはこの地方の言葉で、ガマガエルのことをいい、岩がガマガエルに似ているためそう呼ばれるとのこと。
例大祭では、源頼朝が寄進したといわれる急な階段を、闇夜のなかで駆け降りるという神事がおこなわれます。
また。このゴトビキ岩を「陽石」、花の窟神社の岩を「陰石」として対にして考えることもあるそうです。
大阪府交野市「磐船神社」
大阪府にある磐船神社には、高さ12mの「天の磐船」という船の形をした磐座があります。大坂城築城の際、加藤清正がこの巨岩を運び出そうとしましたが、叶わず断念したとも伝わっています。
また、この神社には磐船の他にも古来からの神道家や修験道の修行場である岩窟があり、ご神体のそばにある巨岩には、大日如来、観音菩薩、地蔵菩薩、勢至菩薩が彫られています。
北海道函館市江差「瓶子岩」
江差にある「瓶子岩」は、海の守り神とされ、年に1回しめ縄が掛け替えられます。
しめ縄は、長さ30m、重さ500キロであり、毎年7月上旬、江差「かもめ島まつり」の際に町内の若者たちが行います。
なぜ瓶子岩と呼ぶのかというと、折居と呼ばれる老婆が瓶に入った神水を海に注ぐとニシンの豊漁を招いたという伝承があり、瓶が形を変えたのがこの岩と伝わるためです。
三重県伊勢市「二見興玉神社・夫婦岩」
観光スポットとしても有名な夫婦岩。ここでは、年に3回(5月5日、9月5日、12月中旬) 長さ35m、重さ40kg、太さ10cmのしめ縄が掛け替えられています。しめ縄が5本でしたが、2024年から岩を保護する観点から3本になったとのこと。威勢の良い木遣歌が流れる中で、氏子たちの手によって張り替えられます。
夫婦岩は、日の出遥拝所であり、沖合約700mには猿田彦大神ゆかりの興玉神石(おきたましんせき)・霊石が鎮座しています。この石は神の依代といわれており、夫婦岩はこの興玉神石と日の出を遥拝する鳥居の役割があるともいわれています。
石川県・羽咋郡志賀町「機具岩(はたごいわ)」
機織りの神様の伝説を生んだ夫婦岩「機具岩」が能登にあり、別名「能登二見」とも言われています。
高さ16mと12mの岩にしめ縄が掛けられ、大きい方が女岩、小さい方が男岩だそうです。
福岡県糸島市・櫻井神社「櫻井二見ヶ浦の夫婦岩」
白い海中大鳥居が有名な櫻井神社。清涼(すず)岩とも呼ばれる夫婦岩があり、ふたつの岩を結ぶ大しめ縄は、長さ30m、直径50m、重さ1tといわれています。
このしめ縄は、毎年4月下旬から5月上旬の大潮に合わせて、氏子によって掛け替えられます。
また、驚くべきことに、夏至の日には、先述した伊勢二見ヶ浦の中心から朝日がのぼり、櫻井二見ヶ浦の中心に夕日が沈むという現象が起こるそうです。
栃木県那須町「殺生石」
9本の尾を持つ「九尾の狐」が平安時代に退治された後、姿を変えたとされる岩が栃木県にあります。
2022年に真っ二つに割れたため、2つの岩を渡すようにしめ縄がかけられるようになり、毎年4月頃、掛け替えているそうです。
山口県下関市・関門海峡「立石稲荷神社・烏帽子岩」
関門海峡にある烏帽子岩は、海にある高さ3mの岩で、毎年12月に赤間神宮の権禰宜がのぼり、長さ約5m、重さ約20kgの新しいしめ縄をかけ、お祓いをしたあと、御神酒をかけて豊漁などを祈願するといいます。
厄災や不漁に悩んだ地元の漁民らが海岸に倒れていた岩を起こしてしめ縄をかけたのがはじまりとのことです。
まとめ〜日本各地にある磐座にも注目してみては?〜
現代にも残る自然信仰(アニミズム)の一種「磐座信仰」をご紹介しました。岩が巨大であるため、長く大きなしめ縄がかけられていることにスケールの大きさを感じたのではないでしょうか。神社へのお参りというと、社殿が思い浮かびますが、自然物にかけられているしめ縄にも注目すると、より興味深くなるはずですよ。