お正月の玄関につけるしめ縄飾り。これは歳神様をお迎えする際の目印となり、家が神様にふさわしい清浄な場所であることを示すほか、不浄なものが入ってこないようにする結界の役割もあります。地域によって形や飾り方にさまざまな違いがあり、なかには独特な文化を持つ地域もあります。
この記事では、一部ではありますが、しめ縄の地域による違いをご紹介します。
しめ縄の地域による違い
しめ縄やしめ飾りは、地域によってかなりの多様性があります。ここでは、形の違いや材料の違いを紹介します。
形の違い
お正月のしめ縄にはさまざまな形があり、地域によって特色があります。
例えを挙げると、北海道の「宝章飾り」、関東地方の「玉飾り」、関西地方の「ごぼう締め」(通称「ゴンボ」)、九州地方の鶴など、さまざまな形があるのです。
他にも、ハト、ハサミ、お椀、大根、宝船、懸の魚(かけのさかな:本物の魚がついている)など、バラエティに富んでおり、なかには複雑な作り方をするため、しめ縄作りの後継者がいなくなってしまった形もあります。
形もさることながら、飾る縁起物にも違いがあります。
関西のごぼう締めでは、橙、譲り葉、裏白、紙垂、稲穂などが一般的で、東海地方の紙垂と梅などの飾りのみといったシンプルな飾りもあれば、より派手な物が好まれる地域もあります。
飾りの一例をあげると、扇子、鶴、亀、松ぼっくり、南天の実、松、おかめや福の神のお顔、紅白や金の紙垂、花などがあり、近年では縁起物に関係なく、インテリアとしておしゃれな飾りをつける場合もあります。
材料の違い
一般的には稲わらが多いですが、しめ縄の材料には他にも大麻や茅(かや)、菅(すげ)、真菰(まこも)、い草など、地元で取れる植物が何かによって違いがあります。
大麻は、伊勢神宮のお札を「神宮大麻」ということからも、魔除けや清浄にする意味があり、光沢が美しい高級なしめ縄として、自宅に飾る方もいらっしゃいます。
出雲地方には真菰で作ったしめ飾りが他地域よりも多く飾られています。
なぜなら真菰は、出雲大社の本殿やお社のしめ縄、茅の輪くぐりの「茅の輪」に使用されているほか、毎年行われる「凉殿祭(すずみどのまつり)」でも「真菰神事」が行われているため。
菅は、北海道や東北地方など寒い地域で多くみられる材料で、寒さのため稲作が難しい地域での利用が多くみられます。
しめ縄を飾る時期の地域による違い
正月の準備をはじめる「正月事始め」から、正月飾りを飾っておく時期(神様が滞在される時期)を「松の内」といいます。松の内のはじまりは12月13日の正月事始めなのですが、終わりの時期が地域によって異なります。
松の内はいつまで?
関東や東北、九州地方の松の内は1月7日まで、関西地方は1月15日(小正月)までとすることが多いです。
実は、江戸時代初期まで松の内は、全国共通で小正月の15日まででした。
しかし、3代将軍徳川家光の月命日に、20日に行われていた鏡開きが重なります。そのため鏡開きが1月11日に変更になり、松の内も7日に前倒しする風習が広まったといわれています。
しかし、このお触れは江戸周辺へは定着しましたが、関西までは広まらず、15日のままの地域が多いのです。また、九州にはもともと1月7日に鬼夜(おによ)と呼ばれる儀式があったため7日までが松の内とされていたそうです。
松の内が終わり、取り外したしめ飾りはどんど焼きや神社に持っていき、お焚き上げしおてもらいましょう。どんど焼きは1月15日ごろに行う地域が多いですが、土日などに行う地域もありますので、確認しておくとよいでしょう。
1年中飾る伊勢地方
三重県の伊勢市や志摩市の一部では、1年中しめ飾りを玄関に飾っておく地域もあります。
この地域でのしめ飾りは、魔除けとしての意味があり、そのルーツは「蘇民将来」の逸話によるといいます。
「蘇民将来」の逸話を簡単にいうと、須佐之男命(スサノオノミコト)が伊勢を旅した際に、泊まるところがなく困っていたところ「蘇民将来」という人物が貧しいながらも家に泊めてもてなしました。
須佐之男命は恩として「蘇民将来の子孫と書いて、茅の輪を門口にかけておけば子孫代々病を免れる」または「疫病を逃れるために、茅の輪を腰につけなさい」と言い残します。
のちに疫病が集落を襲った際に、蘇民将来の子孫だけが助かったという話です。
そのためこの地域では「蘇民将来子孫家之門」と書かれた木札をつけたしめ縄を1年中飾っておくそうで、近年では「笑門」、「千客万来」の札の人気も高いといいます。
沖縄の特徴あるお正月としめ縄
沖縄のしめ縄には、みかんの下に昆布で巻いた炭」がついているという他の地域では見られない特徴があります。
この飾りは「たん(炭)と喜ぶ(こんぶ)」の語呂合わせからきているのだとか。
沖縄では、新暦の1月1日を祝う家庭も多いですが、旧正月をメインに祝う、または両方しっかりお祝いする文化もあります。また、「ヒヌカン(火の神)」の風習や、死者のための正月「十六日(ジュウルクニチー)」など独特な風習が続いている地域もあります。
玄関以外にも飾るしめ飾り
ここまでは玄関に飾るしめ飾りを取り上げましたが、玄関以外に小さなしめ飾りをつける地域もあります。
例えば「輪飾り」という小さなしめ飾り。これは細く綯った縄を輪っかの形にして、稲穂や水引、紙垂などを垂らしたもので、勝手口や水回り、農具、倉などに飾ります。
火の神、かまどの神、水の神などに捧げたり、農具などは1年の無事を祈るなどの意味があります。
近年ではあまり見なくなりましたが、車にしめ飾りをつける人もかつては多くいました。
まとめ〜しめ縄文化の地域による違いを楽しもう〜
お正月のしめ縄・しめ飾りは地域によって違いがあり、とても多様であることがわかります。しめ縄に込められた意味や伝統を知り、地域性や先人たちが大切にしてきたものに思いを馳せるのもいいかもしれません。